5才の七五三(昭和17年ごろ)の記念写真だと思います。
当時の写真は貴重なもので、現在、残っているのはこれ一枚だけです。
当時の日本は大東亜戦争に突入し、日本軍が東南アジア諸島を占領し
ていた時代です。東条英機内閣が発足し小学校は国民学校と呼び方が
変わり、米穀類は配給通帳制度、味噌・しょうゆは切符配給制度となり
米や味噌・しょうゆは自由に買うことができなくなりました。
戦争に勝つために「贅沢は敵だ」という言葉で国民は贅沢が禁止され、
5才のお祝いも国民服と国民帽(写真の服装)でした。

昭和1８年になると日本軍は負け続け、戦況は日ごとに激しくなり、
国内では隣組を通じて、防火訓練や戦災から町を守るために
家屋の取り壊しや強制疎開が強行されるようになりました。
国民は国家総動員法により、戦争に反対するものは、非国民として
警察や憲兵に追われ言論の自由など全くなく「お国のため」の一言で
大人から子供まで強制的に戦争へ追い立てられていきました。

　僕は軍人だい好きよ
　今に、大きくなったなら
　勲章つけて剣さげて
　お馬に乗ってハイ　ドウ　ドウ

こんな歌を毎日を歌いながら遊んでいたことを今でも覚えています。

東京神田で国民学校に入学すると、毎朝、校庭に整列しで天皇陛下と
宮城(皇居)の方向に礼拝し、その後、手旗信号の練習が日課で、
先生方の言うことには絶対服従でした。
国語の教科書の最初にはカタカナで

　アカイ　アカイ　アサヒ　アサヒ
　サイタサイタ　サクラガ　サイタ

　ヘイタイサン　ススメススメ　
　トテチテタ　トテチテタテタ

という言葉から始まり、大きくなったら兵隊(軍隊)に入り、国を守り、
「天皇陛下バンザイ」と言ってお国のために命をささげることが
当たり前のこととして、厳しく教育されました。

昭和19年になると、毎日のようにアメリカの飛行機(B29)による
空襲が続き、その度ごとに地下道や防空壕(今思うと自分たちで
掘ったただの穴)に逃げ込み恐怖におびえながら敵機の通り過ぎる
のを待つだけでした。
そして、東京の下町の大部分が焼き尽くされ１０万人近い死傷者が
でた昭和２０年３月１０日の恐怖の東京大空襲へと続いていきました。

私の家も戦災を逃れるため神田から板橋へと移りました。
板橋も軍事工場地帯で連日のようにB29爆撃機による空襲があり、
防空壕の中で「ゴー‥」という腹に響くような爆弾が落下する音を
聞きながら恐怖におびえながら爆撃機が去るのを待つだけでした。

この頃になると、国は国民に「一億総玉砕」を指示し、日本人は
大人も子供も最後の一人になるまで竹槍を持ってでも米兵と戦えと
学校でも隣組でも教えられ強制されました。

私たちの先輩である多くの若者は、お国のために少年兵として、
強制的に戦地に送られ南の海や島に散っていきました。
私が、あと10年前に生まれていたら、同じような運命をたどっていた
かもしれません。今思うと、想像もできない時代でした。

庶民にとって、戦争ほど、みにくく、無駄で、悲しいものはありません。
強制的に教えられる誤った教育ほど恐ろしいものはありません。
これからの日本と子供たちのために戦争に向かうような教育や政治、
そして、戦争だけはだけは避けなければなりません。